「日本語表現１（下川正晴）」のページ

　私は、祖母を「えっちゃん」と呼んでいる。呼んでいるというより、呼ばされていると言った方が正しいかもしれない。「おばあちゃん」なんて呼ばれたくなかった祖母は、「私はえっちゃん。えっちゃんって呼ぶのよ？」と、私と弟がまだ喋れない頃から、言い聞かせていたというから驚きだ。
　えっちゃんは、今年72歳。腰も曲がっておらず、友達からは「え！あれ、おばあちゃんなの！？」と驚かれる。見た目通り、とても活発な人で、今でも国の内外を問わず、一人で旅行やイベントに行ってしまう。一、二週間に一度は博多へ、一か月に一度は東京まで出かけるのだから、なかなかの行動力だ。
　最近はグランドゴルフにハマっている。私が「ゲートボール楽しいの？」と尋ねると、「いや、グランドゴルフ。　ゲートボールじゃないから！　これだから素人は…」と、鼻で笑いつつ「そりゃ楽しいで～。私はもちろん、チームのメンバー全員が下手やけん、余計にな。みんな将来有望で怖いわ！」なんて言葉が返ってきて、思わず、笑ってしまった。笑うと同時に、えっちゃんの前向きな所が、とても羨ましい。
　いつも明るいえっちゃんだが、泣いている姿を一度だけ見たことがある。じいちゃんが亡くなった時だ。じいちゃんの火葬の直前に、えっちゃんがじいちゃんに「熱いけど頑張ってね。私もすぐにそっちに向かうからね」と泣きながら話しかけていた姿は、今でも忘れられない。私じゃじいちゃんの代わりは果たせない、と痛感した。
　でも、えっちゃんがじいちゃんのことを好きなように、私だって、えっちゃんのことが大好きだ。だから、天国のじいちゃんにお願いがある。もし、えっちゃんがそっちの世界に迷い込んだ時は、一緒にいたいだろうけど、「まだ早いよ」って、えっちゃんを追い返して欲しい。私にとってえっちゃんは、お母さんなんだから。約束だよ？