2012年07月15日

212518 日本語表現期末課題 送り直し

感動したこと/「もやもや」

 モヤモヤがとれない。私は悩んでいた。
 感動したこと。大学の講義で出された課題のテーマだ。ここ最近、心に残るような
経験がなかった私。悶々と頭を悩ませていた。私の感性って実はすこく鈍いのかもしれ
ない。それ以前に、そもそもの言葉の意味をはき違えてはいないだろうか。帰宅後、私
は心配になり、自宅の本棚からおもむろに辞書を抜き取って感動の項目を引いた。「あ
る物事に感銘を受けて強く心を動かされること」とあっあった。
 考えていたとおりの意味だ。しかし、それがさらに私の不安を煽る。感動したこと
を思い出そうにも、何も浮かばなかったからだ。漠然とした焦燥感と、思ってもみなか
った自分への失望感に襲われた。こんなにも無感動な人間だったなんて。恥ずかしさと
気まずさに席を立った。窓から見えた空は厚い雲に覆われ、じとじとと雨を降らす。た
め息を一つ零し、浮かない気持ちのまま辞書を片づけようと本棚に向かった。
 「あれ?」視線にあるものが。本棚の右端に、申し訳程度にひっそりと置かれた、
私の好きな小説だった。野島伸司さんの「スヌスムムリクの恋人」。内容はと言うと、
性同一性障害で女の心を持つ「少女」ノノと、そんな彼女を葛藤や苦しみから救おうと
三人の幼なじみの少年たちが、それぞれの想いを胸に動き出していくという恋愛もの。
気分転換にはいいかもしれない。私はそう思い、本を手にとって、また机に向かった。
読み進めていくと、ノノの心境や幼なじみたちの友情に目頭が熱くなっていくのを感じ
る。読み終えた頃には、ぽろぽろと涙があふれて止まらなかった。しばらく動けずにい
た私だったが、頬に伝うじんわりとした雫の温もりにすっかり安堵していた。なんだ、
ちゃんと感動してるじゃん。
 私が感動したことに気づけずにいたのは、感動することが日常的になっていたから
かもしれない。相も変わらず、外は雨。それでも、いつの間にか私の心のモヤモヤは晴
れていた。



Posted by 芸短ネット演習 at 01:12│Comments(0)
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