2012年07月20日

2125118 日本語表現課題(7月10・15日分再提出)

感動したこと/「もやもや」

 モヤモヤがとれない。私は悩んでいた。
 感動したこと。大学の講義で出された課題のテーマだ。ここ最近、心に残るよう
な経験がなかった私。悶々と頭を悩ませていた。私の感性って、実はすごく鈍いの
かもしれない。それ以前に、そもそもの言葉の意味をはき違えてはいないだろう
か。帰宅後、私は心配になり、自宅の本棚からおもむろに辞書を抜き取って感動の
項目を引いた。「ある物事に感銘を受けて強く心を動かされること」とあった。
 考えていたとおりの意味だ。しかし、それがさらに私の不安を煽る。感動したこ
とを思い出そうにも、何も浮かばなかったからだ。漠然とした焦燥感と、思っても
みなかった自分への失望感に襲われた。こんなにも無感動な人間だったなんて。恥
ずかしさと気まずさに席を立った。窓から見えた空は厚い雲に覆われ、じとじとと
雨を降らす。ため息を一つ零し、浮かない気持ちのまま辞書を片づけようと本棚に
向かった。
 「あれ?」視線にあるものが。本棚の右端に、申し訳程度にひっそりと置かれ
た、私の好きな小説だった。野島伸司さんの「スヌスムムリクの恋人」。内容はと
言うと、性同一性障害で女の心を持つ「少女」ノノと、そんな彼女を葛藤や苦しみ
から救おうと三人の幼なじみの少年たちが、それぞれの想いを胸に動き出していく
という恋愛友情もの。気分転換にはいいかもしれない。私はそう思い、本を手にと
って、また机に向かった。読み進めていくと、ノノの心境や幼なじみたちの友情に
目頭が熱くなっていくのを感じる。読み終えた頃には、ぽろぽろと涙があふれて止
まらなかった。しばらく動けずにいた私だったが、頬に伝うじんわりとした雫の温
もりにすっかり安堵していた。なんだ、ちゃんと感動してるじゃん。
 私が感動したことに気づけずにいたのは、感動することが日常的になっていたか
らかもしれない。相も変わらず、外は雨。それでも、いつの間にか私の心のモヤモ
ヤは晴
れていた。



Posted by 芸短ネット演習 at 16:42│Comments(0)
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