2012年05月10日

私の家族/おじいちゃん子

 「おじぃちゃん、元気?」。おばぁちゃんの家に行くと、真っ先に仏壇の前で手を合わせて、心の中で声をかける。そして、少し七三の髪に大きなメガネをかけたおじぃちゃんの写真を見上げる。おじいちゃんは、目にしわをつくりながら、歯を出してニコッとした笑っている。私は微笑みを返す。これがおばぁちゃんの家に行った時、私が最初にする決まり事だ。
 おじぃちゃんには、会ったことがない。私が産まれてきたときには、もうこの世にはいなかった。おじぃちゃんは突然、死んだのだそうだ。「おやすみ」と言い、眠るように死んだのだと聞いた。周りの友達がおじぃちゃんの話をする度に、うらやましいと思った。会いたいのに会えないのが、寂しかった。
 そんな私が、小学校三年の頃だったと思う、おばぁちゃんの家で遊んでいて、古びてほこりをかぶった筆を見つけた。 大きいものから小さいものまで、たくさんあった。おばぁちゃんに尋ねてみると、おじぃちゃんの物だと言って話をしてくれた。
 「おじぃちゃんはとても達筆で、絵もうまかったんで」。おじぃちゃんの事を初めて知った。おばぁちゃんの家には、額縁に入れられた絵や、木に彫られた孔雀や花の作品がある。それは全部おじぃちゃんがつくった物だ、という事もわかった。好きなものが同じだったことが、すごくうれしかった。
 この頃から、私はおじぃちゃんの写真に笑いかけるのが、当たり前になった。おじぃちゃんが私の話を聞いてくれる。そんな気がするからだ。おじぃちゃんは、私の自慢だ。私もおじぃちゃんの自慢の孫になろう。会ったことはないけど、私はおじぃちゃんっ子だ。



Posted by 芸短ネット演習 at 04:52│Comments(0)
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