私の家族/実は
私を花子(仮名)、私の弟を太郎(仮名)とする。「おれ太郎で!」「あたし花子で!」。服装を交換し、親に向かってお互いの名前を名乗る。男女の性差の少ない幼い頃だからできた、入れ替わりごっこ。親からすればバレバレで、すぐに「何しよんの」と言われるのだが、そんなこと、私たちには関係ない。私の気分はすっかり太郎。入れ替わりごっこはとても楽しくて、何度も繰り返した。
私と太郎は、年子の姉弟である。太郎が小学生までの間は毎日のように、入れ替わりごっこをして遊んでいた。とても仲がよかった。仮にも私は年上。それをわかっていた太郎は、こんなばかみたいな姉を、それでも尊敬してくれていた(と思う)。親が昔撮ったビデオを見返してみても、よくふたりで一緒にいるし、お姉さんぶっている私の後に、太郎はとても素直についてきた。
しかし、太郎が中学生になったあたりから、ふたりの関係は180度変わりはじめた。私より高くなる背。低くなる声。そして、太郎は反抗期に突入した。私だけでなく、家族みんなに対して、太郎は冷たくなった。必要以上に口はきかないし、とても短気で、たまに会話したかと思えば、すぐに暴言。昔の太郎が嘘のようである。昔は「花子ちゃん」と呼んでくれていたのに、いつからか「花子」と呼び捨てされるようになった。
今さら、「ちゃん」付けされても正直気持ち悪いが、そうではなくて、気持ちの問題である。仲が良かった頃のことなんて、もうあまり思い出せない。そんな状態のまま、今まできてしまった。それがあまりにも続くので、こちらも素直になれず、冷たく接するようになってしまった。今ではふつうの兄弟よりも、明らかに仲が悪い。最悪の関係だ。
最近、太郎に彼女ができた。家のみんなには冷たいくせに、彼女にはデレデレだ。なんかちょっとむかつく。でもどうか、彼女には家でするような最低な態度をとりませんように。私たちには、もう昔みたいに優しくしてくれなくても大丈夫。今の太郎が急に優しくなったって、気持ち悪いだけだろうと思うから。その分、彼女には目いっぱい優しくしてあげて欲しい。実は少しだけ、さみしいけれど。